領家雅彦さん 四段審査小論文20201220

合気道の技と姿勢についての考察

 合気道を初めて、今年で15年目になる。40を過ぎた社会人が仕事に支障をきたすことなく、ここまで長く続けられているのも、試合がなく勝ち負けを争わないという合気道の理念と自分のペースで無理なく稽古ができる環境があってのものだと感謝している。

 ここでは、合気道の技と姿勢について、最近稽古で考えていること含め簡単に考察したいと思う。

 

合気道の魅力

 合気道を始めた当初は、先生の見本を見よう見まねで繰り返し、いかに正しく動けるか?技ができるか?うまく受けられるか?が稽古の中心だったと思う。初段くらいになると、一通りの技は覚えるが、今考えると形だけで、理合いについては理解が不十分だったと感じている。弐段 参段と、段位があがるにつれ、形だけの稽古から、合理的な身体の使い方を模索したり、相手の力を感じ合わせるなど、自分の身体や感覚と対話しながら身体を作っていく、より内観を意識する形に変化していると思う。まだまだ理解が及ばないところが多々あるが、稽古するほど奥が深く生涯続けられる武道に魅力を感じる。

 

姿勢 バランス 合気道の技

 ご存じの通り、人は二本の足で立っている。本来バランスを保持するのが難しいはずだが、無意識にバランスをとることができ簡単には倒れない。これは、「重心」、「支持基底面」、「圧中心点」の観点で考えると理解しやすい。

重心は、物体が釣り合う場所になる。人の場合は、ちょうど骨盤辺りで丹田と言わる位置だと言われている。支持基底面は、両足裏で囲まれた面。圧中心点は、重心の真下の位置である。人が倒れずに立っていられるのは、圧中心点が支持基底面の中にあるからである。

 この理屈から、合気道では、相手の圧中心点をいかに支持基底面の外に出し崩すかが課題になる。と言うのも、人は無意識に姿勢を立て直すものであり、たとえば、前から押された場合、圧中心点が支持基底面を外れたと感知すると自動的に足を一歩後ろに踏み出し支持基底面を後ろに広げることで転倒を防止している。

また、支持基底面は、自分以外の物体との関係で拡張する。具体的には、何かにつかまったり、寄りかかったりした場合、両足裏で囲まれた面が、その物体まで拡張する。これにより両足裏で囲まれた面の外に圧中心点が移動しても安定して立つことができる。

 このように、「重心」、「支持基底面」、「圧中心点」を理解することで、合気道の技の理合いを解釈する際の助けになる。

 例えば、合気道には腕を掴まれる技が多数あるが、この状態の二人の関係を考えてみる。上記理屈にあてはめると、支持基底面は二人合わせて4本の足で囲まれた部分になり、ちょうど4本足の机と同じ安定した状態になっている。圧中心点は二人の間にありお互いバランスを取りあっている状態になる。ここで、自分の身体に目を向けると、二つの状態が考えられる。一つは「自分が相手によりかかっている」状態、もう一つは「相手が自分によりかかっている」状態である。

 この理屈について、最近ちょっとした気付きがあった。コロナが少し落着いて稽古が再開された際、極力相手に触れない稽古を行った。注意はするものの接触する瞬間はあるもので、たまにではあるが自分がバランスを崩すことがあった。これは、接触した瞬間、無意識に相手の圧を感知、圧中心点が支持基底面を出ないよう感知した圧と同等の圧で対抗し拮抗状態を作ろうとしたが、相手の身体がそこに存在しなかったためバランスを崩したと考えている。

 上記経験則から、相手と接触している状態の多くは無意識に相手に寄りかかっていると思われる。つまり、崩されやすいということであり、寄りかからないためにも自分の姿勢を正しくすることが重要だと考える。

 

 上記考察も踏まえ、今後意識して稽古していきたい点を述べる。

 1.構え

 個人的にはこれまで構えについてそこまで意識していなかったように思う。養神館系の合気道では中心力の養成法として、構えの稽古を行っているようである。演武の映像でも、初めと終わりにしっかり構えを取っているのが印象的だ。養神館の文献によると、構えについて次のような記載がある。「頭・手・足・臍・重心が、一線上に乗るように立ち、腰を立てる。足幅は前後に一足半。両足のつま先が45度外に向くようにかかとを絞る。前脚にやや重心をかけて後ろ脚はピンと張り、腰骨を正確に正面に向ける。両手の指を一杯に開き、剣を相手に向けるように胸の高さと下腹の高さにそろえる。自己の中心にすべてを帰一させ、心身ともに己を開き切った姿勢で呼吸を調え、力むことなく柔軟に立てるように練習する」これは、武道でよく言われる正中線や軸を習得するのに良い方法だと思う。

 

2.相手との関係と影響

 相手との関係を簡単に分類すると、「離れている」、「くっついている(接触している)」の大きく2つの状態がある。まず、離れている状態では、相手との間合いと、いかに自分に優位な位置に立てるか、主導権が握れるかが重要と考える。例えば、正面打ちの振り上げ動作の合わせにより相手が力を出す前を抑えるタイミングなどがある。

一方、くっついている状態については接触した瞬間とその後の対処を考える。接触時は、皮膚感覚により相手との接点から中心軸までの力の流れを感じることが重要だと思う。お互いの力が絶妙にバランスする感覚を掴むことができれば、相手の力とぶつからず、相手の出した力に合わせるとか利用するということができ、相手に大きな影響を与えられると思う。

また、主導権を握るという意味では、手首の取らせ方など、相手とコンタクトする瞬間にいかに優位な状態を確保できるかが課題になる。

 

 最後に、合気道では決まった型を動きながら稽古するため、動きに捕らわれるあまり繊細な部分を感じることが難しく、稽古をすればするほど課題が湧いてくるように思う。特に意識とか心の課題は多く、何かやろうと意識しすぎると、そこに力みが生まれることで合理的な動きができなくなる。心と身体がひとつにまとまることで最大の力が発揮できると考えられるため、この点を意識しながら今後も稽古に励みたいと思う。


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